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東京地方裁判所 平成5年(ワ)4762号 判決

甲事件原告兼乙事件被告

大河内清正

ほか一名

乙事件原告

関根晃

ほか二名

甲事件被告兼乙事件被告

新堀文和

乙事件被告

日産火災海上保険株式会社

主文

一  甲事件被告兼乙事件被告新堀文和は、甲事件原告兼乙事件被告大河内清生及び同大河内正三子に対し、それぞれ一八七九万六〇六七円及びこれに対する平成四年一月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件被告兼乙事件被告新堀文和は、乙事件原告関根晃に対し三四五七万八一三六円、同関根芳昭に対し九四六万二四二六円及び同関根美佐子に対し九四六万五六一六円〔更正決定 乙事件原告関根晃に対し四二一四万〇九〇五円、同関根芳昭に対し一〇七二万二八八八円及び同関根美佐子に対し一〇七二万六〇七八円〕並びにこれらに対する平成四年一月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件被告日産火災海上保険株式会社は、乙事件原告関根晃、同関根芳昭及び同関根美佐子の甲事件被告兼乙事件被告新堀文和に対する判決が確定したときは、乙事件原告関根晃に対し三四五七万八一三六円、同関根芳昭に対し九四六万二四二六円及び同関根美佐子に対し九四六万五六一六円〔更正決定 乙事件原告関根晃に対し四二一四万〇九〇五円、同関根芳昭に対し一〇七二万二八八八円及び同関根美佐子に対し一〇七二万六〇七八円〕並びにこれらに対する平成四年一月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙事件原告関根晃、同関根芳昭及び同関根美佐子の甲事件原告兼乙事件被告大河内清生及び同大河内正三子に対する請求並びに甲事件被告兼乙事件被告新堀文和及び乙事件被告日産火災海上保険株式会社に対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、甲事件原告兼乙事件被告大河内清生及び同大河内正三子に生じた費用の二分の一と甲事件被告兼乙事件被告新堀文和に生じた費用を甲事件被告兼乙事件被告新堀文和の負担とし、甲事件原告兼乙事件被告大河内清生及び同大河内正三子に生じたその余の費用と補助参加人に生じた費用を乙事件原告関根晃、同関根芳昭及び同関根美佐子の負担とし、乙事件原告関根晃、同関根芳昭及び同関根美佐子に生じた費用の二分の一を甲事件被告兼乙事件被告新堀文和及び乙事件被告日産火災海上保険株式会社の負担とし、乙事件原告関根晃、同関根芳昭及び同関根美佐子に生じたその余の費用と乙事件被告日産火災海上保険株式会社に生じた費用を各自の負担とする。

六  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一請求

一  甲事件

1  被告は原告大河内清生に対し、一八七九万六〇六七円及びこれに対する平成四年一月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告大河内正三子に対し、一八七九万六〇六七円及びこれに対する平成四年一月三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  乙事件

1  被告新堀文和、被告大河内清生及び被告大河内正三子は、各自原告関根晃に対しては、六一〇五万九二〇八円、原告関根芳昭に対しては、一七〇二万九八八六円、原告関根美佐子に対しては、一六九八万九〇七六円並びにこれらに対する平成四年一月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告日産火災海上保険株式会社は、原告らの被告新堀文和、被告大河内清生及び被告大河内正三子に対する判決が確定したときは、原告関根晃に対しては、六一〇五万九二〇八円、原告関根芳昭に対しては、一七〇二万九八八六円、原告関根美佐子に対しては、一六九八万九〇七六円並びにこれらに対する平成四年一月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1(甲事件)

(一)  本件事故の発生

(1) 日時 平成四年一月二日午後一〇時四五分ころ

(2) 場所 埼玉県大里郡寄居町大字赤浜六六六番地交差点

(3) 甲車両 普通乗用自動車(熊谷五五む八一四三)

運転者 亡大河内仁(亡仁)

同乗者 亡関根志津子(亡志津子)

右同 亡関根佐知子(亡佐知子)

右同 乙事件原告関根晃(原告晃)

(4) 乙車両 普通貨物自動車(熊谷四四ひ六五六五)

運転者 甲事件被告兼乙事件被告新堀文和(被告新堀)

(5) 態様 甲車両が直進して交差点に進入した際、乙車両が甲車両の右側方から進入し、右交差点内で甲車両の側面に衝突した。

(二)  本件事故により、亡仁は平成四年一月三日死亡した。

(三)  責任

被告新堀は乙車両の運行供用者であり、自賠法三条の責任がある。

(四)  損害

(1) 別紙損害金計算書Ⅰのとおり。

(2) 相続

甲事件原告兼乙事件被告大河内清生(原告清生)及び原告大河内正三子(原告正三子)は、亡仁の両親であり、亡仁の損害を各二分の一宛相続した。

2(乙事件)

(一)  本件事故の発生

1(一)と同じ。

(二)  本件事故により、亡志津子は平成四年一月三日死亡し、亡佐知子は同月二日死亡した。

(三)  本件事故により、原告晃は、顔面裂傷、右角膜異物、顔面瘢痕拘縮、左手指異物、抑うつ状態等の傷害を被り、平成四年一月二日から同月一六日まで一五日間入院した。

原告晃は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級の認定を受けている。

(四)  責任

(1) 被告新堀は乙車両の運行供用者であり、自賠法三条の責任があるほか、交差点に赤信号で進入した過失があり民法七〇九条の責任がある。

(2) 亡仁は亡志津子、亡佐知子に対しては、運行供用者として自賠法三条の責任があり、原告晃に対しては、赤信号を見落として進入した過失があるので民法七〇九条の責任がある。

原告清生、同正三子は亡仁の両親で、その相続人である。

(3) 乙事件被告日産火災海上保険株式会社(被告日産火災)は、被告新堀と対人賠償保険金額八〇〇〇万円の自家用自動車総合保険を、亡仁と対人賠償保険金額無制限の他車運転危険担保特約付自家用自動車総合保険を締結していた。

(五)  損害

(1) 別紙損害金計算書Ⅱのとおり。

(2) 相続

ア 亡志津子

原告晃は亡志津子の夫であり、乙事件原告関根芳昭(原告芳昭)及び同関根美佐子(原告美佐子)はその子らである。

したがつて、亡志津子の損害は、原告晃が二分の一、原告芳昭及び原告美佐子が各四分の一を相続した。

イ 亡佐知子

原告晃及び亡志津子は亡佐知子の両親であり、亡佐知子の損害を各二分の一宛相続し、亡志津子が相続した分は、原告晃がその二分の一を、原告芳昭及び原告美佐子がその各四分の一を相続したものである。

したがつて、亡佐知子の損害は、原告晃が四分の三、原告芳昭及び原告美佐子が各八分の一を相続した。

二  請求原因に対する認否

1  被告新堀

(一)(1) 請求原因1(一)は、認める。

(2) 同1(二)は、認める。

(3) 同1(三)は、被告新堀が乙車両の運行供用者であることは認め、その余は争う。

(4) 同1(四)は、てん補額は認め、その余は不知ないし争う。

(二)(1) 請求原因2(一)は、認める。

(2) 同2(二)は、明らかに争わない。

(3) 同2(三)は、不知。

(4) 同2(四)(1)は、被告新堀が乙車両の運行供用者であることは認め、その余は争う。

同2(四)(3)は、認める。

(5) 同2(五)は、てん補額は認め、その余は不知ないし争う。

2  被告日産火災

被告新堀の認否1(二)と同じ。

3  原告清生、同正三子

(一) 請求原因2(一)は、認める。

(二) 同2(二)は、明らかに争わない。

(三) 同2(三)は、不知。

(四) 同2(四)(2)は、原告清生、同正三子が亡仁の両親で、その相続人であることは認め、その余は争う。

亡仁は運行供用者ではない。

(五) 同2(五)は、不知。

4  原告清生、同正三子補助参加人大東京火災海上保険株式会社(補助参加人)

争う。

三  抗弁

1  原告清生、同正三子に対する抗弁(被告新堀、被告日産火災)

本件事故は、信号機により交通整理の行われている交差点において、赤信号で進入した左方直進車である甲車両と青信号ないし黄信号で進入した右方直進車である乙車両との出会い頭の事故であり、少なくとも八〇パーセント程度の過失相殺がなされるべきである。

2  原告晃、同芳昭、同美佐子に対する抗弁(原告清生、同正三子、補助参加人)

本件事故は被告新堀の飲酒による赤信号無視の結果発生したもので、被告新堀の一方的過失である。したがつて、亡仁に過失はなく自賠法三条ただし書の免責事由がある。

四  抗弁に対する認否

1(一)  原告清生、同正三子

争う。

亡仁の運転する甲車両は青信号で交差点に進入した。

(二)  補助参加人

争う。

2  原告晃、同芳昭、同美佐子

争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  争いのない事実等

1  争いのない事実

平成四年一月二日午後一〇時四五分ころ、埼玉県大里郡寄居町大字赤浜六六六番地交差点で、亡仁が運転し、亡志津子、亡佐知子及び原告晃が同乗する甲車両(熊谷五五む八一四三)と被告新堀が運転する乙車両(熊谷四四ひ六五六五)が衝突した。

本件事故の結果、亡佐知子は同月二日死亡し、亡仁及び亡志津子は平成四年一月三日死亡した。

被告新堀は乙車両の運行供用者である。

本件事故により、亡仁及び亡志津子の損害について各三〇〇〇万円の、亡佐知子の損害について二七九八万円のそれぞれてん補を受けた。

被告日産火災は、被告新堀と対人賠償保険金額八〇〇〇万円の自家用自動車総合保険を、亡仁と対人賠償保険金額無制限の他車運転危険担保特約付自家用自動車総合保険を締結していた。

2  証拠により認定した事実

証拠(乙五五、五六)によると、被告日産火災の締結していた右各自家用自動車総合保険には、被告新堀には対物賠償として保険金額一事故二〇〇万円、亡仁には対物賠償として保険金額一事故五〇〇万円の契約がされていることが認められる。

二  亡仁の損害(請求原因1(四))―損害金計算書Ⅰ

1  逸失利益

証拠(甲一、二の1、2、五、七の1ないし5、八、原告清生本人)によると、亡仁は昭和四六年一二月二四日生まれの独身の男性であり、本件事故当時二〇歳であつたこと、亡仁は高校卒業後、平成二年四月弥生産業株式会社に入社したこと、平成三年四月にはその子会社である有限会社ワイエスエンジニアリングに勤務することになり、エレベーター等の修理を担当していたこと、その平成三年の年収は二六二万五六六五円であつたこと、同僚である従業員の平成五年の年収については、杉渕隆美(昭和二二年生まれ)の年収は約六五一万円であり、茂垣勇(昭和二四年生まれ)の年収は約七一〇万円であり、佐々木潔(昭和二四年生まれ)の年収は約五二四万円であり、増田隆夫(昭和二一年生まれ)の年収は約六九六万円であり、平成五年三月に入社した印牧雅之(昭和三三年生まれ)の年収は約三六四万円であつたことが認められる。

右事実によると、亡仁の同僚は中途採用の一人を除いては、いずれも平成三年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、新高卒計、男子労働者、全年齢平均の五〇四万八九〇〇円を上回る年収を得ていることが認められ、亡仁も今後右の年収を得る蓋然性があることが高度に認められるのであり、亡仁の逸失利益の算出にあたつては右の平均賃金を採用するのが適当であり、これから生活費として五〇パーセントを控除し、六七歳まで四七年間の中間利息をライプニツツ方式により控除して、逸失利益を算出すると、四五三九万二一三五円となる。

504万8900円×(1-0.5)×17.981=4539万2135円

2  慰謝料

本件事故の態様、結果、とりわけ被告新堀が飲酒運転をしていたことを考慮すると、亡仁の精神的苦痛を慰謝するには、一八〇〇万円が相当である。

3  葬儀費用

証拠(甲三の1ないし15、八)によると、原告晃へのお見舞いなど亡仁の葬儀と無関係な費用などを除いても、亡仁の葬儀費用としては一二〇万円以上を支出しており、請求にかかる一二〇万円は本件事故と因果関係のある損害と認められる。

4  てん補

当事者間に争いがない。

5  相続(請求原因1(四)(2))

証拠(甲一)によると、原告清生及び原告正三子は、亡仁の両親であり、亡仁の損害を各二分の一宛相続したことが認められる。

6  弁護士費用

原告清生及び同正三子が本件訴訟(甲事件)の提起、遂行を同原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、同原告らに各一五〇万円を認めるのが相当である。

三  原告晃の傷害(請求原因2(三))

証拠(乙三四の1、三五、三六、丙六ないし一五、二七、二八、原告晃本人、弁論の全趣旨)によると、本件事故により、原告晃は、顔面裂傷、右角膜異物、顔面瘢痕拘縮、左手指異物、抑うつ状態等の傷害を被り、平成四年一月三日から同月一六日まで一四日間深谷赤十字病院に入院し、その後も同月二一日から同年八月一一日まで同病院の整形外科、眼科及び形成外科に合計二六日間(実診療日数)通院したこと、原告晃は、遅くとも平成四年八月までに症状固定し、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級の認定を受けたことが認められる。

四  亡仁の運行供用者責任(請求原因2(四)(2))

証拠(甲八、乙三四の1、四三、原告晃本人)によると、亡仁と亡佐知子は将来結婚する約束をしていたこと、亡仁は亡佐知子の実家である原告晃の家へ平成四年一月一日の夕方から泊まりにきていたこと、本件事故当日の午後三時三〇分ころ亡仁と亡佐知子は買物に出掛けて同日一〇時一五分ころ、帰宅したこと、原告晃は、亡志津子、亡佐知子及び亡仁と、近所の神社へ初詣に行くことにしたこと、原告晃は午後九時ころに普通のコツプで三分の一程度の清酒を飲んでいたため車の運転をせず、亡仁が原告晃のスプリンター(甲車両)を運転して行つたこと、本件事故はその初詣を終えて原告晃の自宅に帰宅途中の事故であつたことの各事実が認められる。

右事実によると、少なくとも、亡志津子及び亡佐知子に対する関係では、原告晃とともに亡仁が甲車両の共同運行供用者であることは明らかであるというべきである。

五  被告新堀及び亡仁の民法七〇九条責任(請求原因2(四)(1)、(2))

1  衝突の態様等

(一)  証拠(乙二、六、一五)によると次の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、関越自動車道花園インターチエンジの南方約一五〇〇メートルに位置し、県道富田熊谷線と県道菅谷寄居線の交差する通称花園北交差点である。

県道富田熊谷線は、東西に走り東進すると川本町を経由し熊谷市に通じ、西進すると寄居町鉢形に通ずる。

県道菅谷寄居線は、南北に走り南進すると小川町に通じ、北進すると花園町を経由し深谷市に通ずる。

(2) 本件事故現場は、右の二本の県道が交差する信号機により交通整理の行われている交差点(本件交差点)である。

県道富田熊谷線は、六・二メートルの車道とその外側に〇・四メートルの路肩部となつており、車線は、上下各一本で、アスフアルト舗装された平坦な道路で、中央に黄色のセンターラインが引かれている。

県道菅谷寄居線は、一一・〇メートルの車道とその西側に一・七メートルの歩道が設けられている。交差点の前後には右折帯(進行方向別通行区分)が設けられ、黄色のセンターラインによつて区画されている。

(3) 交差点周辺は、南東角及び南西角に住宅があり、県道富田熊谷線側はコンクリートの高さ八〇センチメートルの擁壁となり、北東角及び北西角は畑となつており、被告新堀から亡仁の進行路の見通しは困難である。

両県道は公安委員会により最高速度が四〇キロメートルと定められているほか、駐車禁止、追越しのためのはみ出し禁止となつている。

(4) 甲車両は、時速約四〇キロメートルで、乙車両は時速約七、八十キロメートルで本件交差点に進入し、別紙交通事故現場見取図〈×〉1地点で衝突した。

本件交差点付近には真新しいスリツプ痕はなく、交差点の中央マークの北西部に書かれた矢印部に長さ一・二メートル、最大幅〇・二メートルで、鉢形方面から左前方に流れたタイヤのズレ痕が印象されていた。

(5) 甲車両の損傷状況は次のとおりである。

フロントガラスは破損欠落し、右前バツクミラーは欠落して、ロアーパネル右端部は、長さ三〇センチメートル、幅二〇センチメートルが内側へ曲がつている。運転席ドアは、半開きで把手の下部には二〇センチメートル×二三センチメートルの凹みがある。右側面のセンターピラーから後部ドア・フエンダーにかけて大きく凹み、最深部は三七センチメートルである。右後輪のスパイクタイヤはバーストしてボルト部から外れかかつている。右前輪は空気が抜けている。右ドアガラスは前後はともに破損欠落している。後部トランクリツド部は開き、右テールランプ付近及びバンパーは大きく曲損し、マフラーが脱落している。後部ウインドガラスは破損欠落している。後部座席の後ろに取り付けてあつたステレオスピーカーはなくなつている。

(6) 乙車両の損傷状況は次のとおりである。

フロントガラスは欠落し、前部パネルは大きく凹み、左右前照灯及び方向指示器はガラス等が破損し、アンダーパネルは中央部が欠落し、車体部が露出している。中央部の凹みの最深部は二一センチメートルであつた。運転席ドア中央部が歪んでやや後方へ押され、ドアを閉めることができない。右前のバツクミラーは根元部から欠落している。その他ガラス等に異常はない。後部ドアは、内側へ曲損しドアが歪んでいる。助手席ドアは、半開きになり、車体部からややずれている。スライドドアは内側ゴム枠が外れドアを閉めることができない。右フロントピラー部の地上高一・二八メートルに幅五センチメートルの凹損が認められた。

(二)  以上の事実により判断すると、甲、乙車両の破損状況によると乙車両の前部が、甲車両の右後輪付近に衝突したことが窺え、その衝突地点は乙車両進行道路の、右折帯と左折直進帯の区分線を北に延長した線上の別紙交通事故現場見取図の〈×〉1地点であると認められる。この事実に両車両の進入速度を勘案すると、甲車両が本件交差点に先に進入し、その後、乙車両が進入していることが認められる。

そして、被告新堀は、交差点に後に進入しており、甲車両が視界に入つたと考えられるにもかかわらず、スリツプ痕などもなく制動措置を取つた形跡が窺われない。

2  車両進入時の信号機の表示について

(一)  証拠(乙二、一五)によると、本件交差点の信号機の制御方式等については次の事実が認められる。

本件交差点の信号機は、地点感応制御式定周期信号で、車両感知器で流入部の車両の進行状況を観測し、その流入部の信号表示時間を伸縮させる信号制御の方式となつている。そして、本件交差点に設置された信号機は、全ての流入部の現示を感応させる全感応式となつており、本件事故現場の主道路側は県道富田熊谷線側である。

本件事故現場における信号機は、二現示信号で定数設定については、二四時間をそれぞれ三段階に分けて設定している。設定時間は、午前一時から午前六時までを第一パターン、午前六時から午後〇時までを第二パターン、午後〇時から午前一時までを第三パターンとして設定している。本件事故当時は第三パターンとして制御されており、そのサイクルは、主道路側が、青三七秒ないし五四秒、黄四秒、全赤二秒、赤三五秒ないし五二秒、従道路側が、赤四五秒ないし六二秒、青二七秒ないし四四秒、黄四秒、全赤二秒となつている。一方の道路側が青信号のときは、他方は必ず赤信号となる。

本件信号機は、全感応式であるため、主道路側、従道路側にそれぞれ車両の青表示の時点において車両感知器により車両通行が感知された場合(三秒以上の連続進行)に、その車両の進行状況により定数の設定値が、主道路側である県道富田熊谷線側の青色表示の最小表示時間が三七秒から最大表示時間五四秒の間に、また、従道路である県道菅谷寄居線側については、青色表示の最小表示時間が二七秒から最大表示時間四四秒の間において、それぞれ変化する動作となつている。

(二)  被告新堀の供述等の概要は次のとおりである。

(1) 夜間で暗かつたため、ライトを下向きにし、小川町方面から花園町方面に向かい、時速約五〇キロメートルで走つていた。事故現場付近まできたところ、前方の交差点の対面信号が、青色になつているのがわかり、交差点の少し手前で青色から黄色に変わつたので、そのまま直進したところ、車と衝突した(乙四五)。

(2) 時速七、八十キロメートル位で直進した。衝突地点の一一五・八メートル手前の地点(別紙交通事故現場見取図〈1〉地点)で、川にかかる橋の継ぎ目でガタンと振動し、そのとき一三二・八メートル左前方の信号機の信号の青色が目に入り、そのまま走つて行くと交差点に入つたところで強いシヨツクを感じた(乙八、四六)。

(3) 事故のあつた交差点の少し手前にある橋の上で対面する前方の信号機を見たとき確かに青色だつた。対面信号の青色を見た後、相手の車と衝突するまでの間、対面信号が何色かは見ていない。ブレーキを踏んだ記憶はない。青色信号を確かめた後に、もし信号が変わればブレーキをかけて減速なり止まる措置を取ると思うのでその記憶がない。事故直前の対面信号については何色かわからない(乙四七)。

(4) 被告新堀の方の信号はずつと青だつた。交差点に入るまでずつと青信号だつたことは確認している。入る直前の信号は見ていない。入る直前に変わつたとしても黄色である。黄色信号に変わつたのは見ていない(乙五三)。

(5) (〈1〉地点で青色信号を確認した理由を問われて)

そこでと言われても困りますけれど、どこではつきり分かつたのかと言われましたので、途中目標物も何もなく、ちようど自分の記憶に残つていたのが、その橋のところだつたもんですから、その後ずつと何も見てないというんじやなくて、そのまま、青、青、青という感じで、特別変わらない限りそのまま信号は青だというふうにして進んできたわけですから(被告新堀本人11頁)。

(6) この信号が、こちらから見て上り坂になつてまして目の高さにあつたもんですから、それで、そのままずつと青という感じで来てました(被告新堀本人12頁)。

(7) (信号のほかに見た道路標識がどういうものか問われて)

ちよつと記憶が定かじやないんですが(被告新堀本人13頁)。

(8) (本件交差点進入まで信号が変わつたことはないかと問われて)

変わつたという記憶がないです。ぶつかる直前の信号は何色だつたかと聞かれたことに対しては、車のほうを見てましたので、その時点の信号は分かりませんと答えた(被告新堀本人13頁)。

(直前とはどこかを問われて)

交差点の中一〇メートル手前である(被告新堀本人14頁)。

(交差点のどの辺りかを問われて)

暗くてちよつと特定できない(被告新堀本人14頁)。

(9) (普通は走行車線の真ん中を走るのかを問われて)

はい、多分そうだと思います(被告新堀本人34頁)。

(10) (ブレーキとアクセルを踏み間違えただろうと言われれば、そうかもしれないと思うような記憶かを問われて)

直前の記憶はそうです(被告新堀本人40頁)。

(11) (ハンドルを右に故意に切つたとか、右側に寄せていつたとか、そういう記憶もないのかを問われて)

それもありません(被告新堀本人52頁)。

(12) (衝突直前に見たのが光か、車かを問われて)

何か感じだけなんです、正直言いまして(被告新堀本人53頁)。

(三)  被告新堀の供述の信用性

(1) 被告新堀の供述については、〈1〉地点で青色信号を確認し、青のまま本件交差点に進入したというもので、前記認定の信号機の制御方式及び乙車両の進入速度によるとそれ自体に不合理な点はないというべきである。

しかし、証拠(乙二、二二の1ないし3、二三、二四、四五、四六、被告新堀本人)によると、年始の挨拶に訪れた山本龍夫の家で、午後三時ころから午後五時ころまでに清酒を冷やで二、三合(〇・三六リツトルないし〇・五四リツトル)を飲んでいること、午後五時からはコーヒーなどを飲んでいたこと、午後八時少し前ころ松本真の家に年始に訪れたこと、松本は被告新堀の酒の臭いは感じなかつたが、顔に赤味がさし、陽気でよくしやべるので、被告新堀が酒を飲んでいるとすぐ分かつたこと、そのころから午後八時三〇分ころまでの間に、一合入りのグラスで日本酒を冷やで約一杯半(約〇・二七リツトル)飲んでいること(この点、被告新堀はビールを飲んだと供述するが、松本自身は道路交通違反の被疑者として取り調べを受けているところ、アルコール度の高い清酒を飲ませたという不利益な事実を、自ずから供述しており、松本の供述の信用性は高いというべきである。)、酒を飲み終わつた後はお茶等を飲んで午後一〇すぎころ松本宅を辞したこと、その時点で被告新堀は多少ほろ酔い気味であると感じていたこと、本件事故から約三時間経過した後の平成四年一月三日午前一時五五分の時点で、被告新堀の呼気一リツトルから〇・二五ミリグラム以上のアルコールが検出されていること、

被告新堀は本件事故の七、八年前は日本酒五合程度が適量であつたが、糖尿病を患い、その後は、焼酎の水割りを二、三杯位飲むといい気持ちになり、五杯位が適量であることの各事実が認められ、右事実によると、本件事故当時、被告新堀は、日頃飲まない日本酒を少なくとも合計〇・六リツトル程度は飲んで相当程度の酔いの状態にあつたことが窺われ、その供述の信用性を直ちに認めることはできない。

(2) そして、その供述を詳細に検討すると次の諸点を指摘することができる。

ア 被告新堀が対面信号の青を確認した地点として特定した〈1〉地点は、単に記憶にあつた橋をあげたに過ぎず(五2(二)(5))、また、同時に確認した道路標識についてもその内容を記憶していないのであつて(同(7))、確たる根拠ということはできない。

イ 対面信号を確認した後、交差点進入までにその信号を確認していたかの点については、見ていないと供述して、その根拠として減速などの制動措置を取つていないことをあげる(同(3))一方で、交差点に入るまでずつと青信号だつたことは確認しているとの供述があり(同(4))、その供述相互の間に齟齬があり、また、被告新堀本人尋問によつても、ずつと何も見てないというんじやなくて、そのまま、青、青、青という感じで、特別変わらない限りそのまま信号は青だというふうにして進んできた(同(5))、そのままずつと青という感じで来てました(同(6))、(信号が)変わつたという記憶がないです(同(8))というのであつて、青信号を本件交差点進入時まで確認していたとの明言は避けているのである。むしろ、右本人尋問の結果から窺えるのは、本件交差点進入まで信号は確認しておらず青と思い込んで進入したとも受け取ることができる供述といえる。

ウ 本件交差点進入直前の信号については、交差点の少し手前で青色から黄色に変わつた(同(1))、事故直前の対面信号については何色かわからない(同(3))、入る直前の信号は見ていない(同(4))というのであつて、その供述の一貫性が認められない。

エ 衝突直前に車両を見たのかについては、車のほうを見てました(同(8))と供述するものの、その地点を特定できず(同(8))、さらに、車自体を確認したのか、そのライトの光を確認したのかについても、何か感じだけなんです(同(12))というのであり、その供述は曖昧である。この点については、前記認定のとおり(五1)、甲車両は交差点に先入しているのであつて、被告新堀としては当然その視界に入つていなければならず、その点が曖昧であることは、むしろ、被告新堀が前方を注視していなかつたことの証左といわなければならない。

オ 被告新堀の進行位置については、直進の走行車線の真ん中を走つていた旨供述するが(同(9))、前記認定のとおり(五1)、右折帯と左折直進帯の区分線上を走行していたと認められ、右供述は事実に反する。

(3) 以上のとおり、被告新堀は本件事故当時飲酒の影響が相当程度あつたと認められる上に、その供述内容自体も多くの疑問があり、被告新堀の供述を直ちに採用することはできない。

(四)  原告晃の供述等(乙二、九、三四の1、2、五二、原告晃本人)の概要は次のとおりである。

(1) 神社のお参りを済ませ、甲車両を亡仁が運転し、原告晃が助手席に、その後ろに妻の亡志津子、運転席の後ろに亡佐知子がそれぞれ乗車して自宅に向かつた。

(2) 甲車両は、鉢形方面から川本町方面に向かつて走つてきた。道路は直線に近いゆるい左カーブになつていた。原告晃は甲車両の助手席に乗つていた。左カーブの終了付近の地点(衝突地点の一七六・八メートル手前)で、一九一メートル先の対面信号機が青色であつたことに気付いた。

(3) 甲車両は時速四〇キロメートル位のスピードで直進し、原告晃は前方の信号を見ていた。信号は青色のままであつた。亡仁はそのまま交差点内に入つた。甲車両が交差点の真ん中付近にさしかかつたとき、突然ビシツという音が車の右後輪の方でした。

(五)  原告晃の供述の信用性

原告晃の供述については、同原告が本件事故当日の午後九時ころに普通のコツプで三分の一程度(約〇・〇六リツトルと推定できる。)の清酒を飲んでいたこと(前記四で認定のとおり。)、本件事故後の入院中同原告に幻聴や被害関係妄想が出現していること(丙一〇)が認められ、その供述とりわけ同原告の平成四年二月二八日付け警察官調書(乙三四の1)の信用性に疑問が生じないわけではない。

しかし、原告晃は清酒であれば五、六合(〇・九リツトルないし一・〇八リツトル)は飲めるのであつて(原告晃本人)、約〇・〇六リツトル程度の飲酒によつて記憶などに影響があるとは考えられず、また、被害関係妄想については、原告晃は平成四年一月一六日の退院時には服薬によりそれらが寛解に向かつており、右警察官調書作成時点においてその影響を考慮する必要はないと考えられる。

そして、証拠(丙一、三、四、原告晃本人)によると、原告晃は、昭和三五年に大型第一種運転免許を取得し、昭和三七年には職業運転手となり、昭和四二年には普通第二種運転免許を取得してタクシー運転手となつて、その後会社は変わつたもののタクシー運転手として勤務を継続していること、昭和五五年から平成四年一一月まで無事故無違反であり、平成五年一月には寄居警察署長等から無事故などを理由に表彰されていること、子供などの車に同乗するときはスピードや信号については口うるさいほど注意していることの各事実が認められる。

一般的に運転免許を取得している者が車の助手席に乗車している場合、信号やその他の交通標識などを常に意識して乗車していることは経験則上明らかであり、原告晃が右認定の経歴を有する職業運転手であることを勘案すると、甲車両の助手席に乗車していても信号を確認し、仮に、交差点進入時に信号が赤色であれば亡仁に注意を促したものと推定されるところである。なお、亡仁と亡佐知子は将来を約束していた仲であるから、亡佐知子が助手席に乗るのが普通ではないかと考えられるところ、原告晃が助手席に乗車したこと自体その運転手としての職業意識の現れとも見ることができる。

そうすると、原告晃の供述には特に疑問を差し挟む余地はないというべきである。

(六)  以上のとおり、被告新堀の供述は採用できず、原告晃の供述を採用すべきであるところ、その供述によると甲車両が本件交差点に進入したときにその対面信号は青色表示であるから、前記認定の本件交差点の信号機の制御方式によると、被告新堀の対面信号は赤色を表示していたものと認められる。

3  右認定の各事実によると、被告新堀は、信号が赤色表示の場合には停止しなければならない注意義務があるにもかかわらず、対面信号機が赤色を表示しているのにこれを無視し、しかも、前方注視を怠つたまま交差点に漫然と進入し、交差点に進入していた甲車両に気づくことなく、制動措置も取らないまま甲車両に衝突したものであり、同被告には民法七〇九条の責任がある。

これに対し、亡仁の対面信号機は青色を表示しており、本件交差点に進入するについて何らかの注意義務違反があつたということはできず、また、甲車両の速度、乙車両との衝突部位から検討しても、亡仁に過失はなく民法七〇九条の責任を認めることはできない。

六  亡志津子、亡佐知子及び原告晃の損害(請求原因2(五))――損害金計算書Ⅲ

1  亡志津子

(一)  逸失利益

(1) 証拠(丙一六、三四、三五、原告芳昭本人――第二回)によると、亡志津子は、昭和一五年一二月二五日生まれの女性で、本件事故当時五一歳であつたこと、株式会社寄居カントリークラブにキヤデイーとして勤務し、その平成三年の収入は三五〇万四三九〇円であつたこと、本件事故当時夫である原告晃と二人で暮らしていたことが認められる。右収入から生活費として三〇パーセントを控除し、六七歳まで一六年間の中間利息をライプニツツ方式により控除して、逸失利益を算出すると、二六五八万五六六九円となる。

350万4390円×(1-0.3)×10.8377=2658万5669円

(2) なお、原告晃らはチツプの逸失利益、退職金の目減り及び主婦としての逸失利益を主張するので判断する。

チツプについては、亡志津子が現実にこれを受領していたことを認めるに足りる証拠はないのでこれを認めることはできず、退職金については株式会社寄居カントリークラブにおける退職金の規定が不明であつてこれを認めることはできない。

主婦の逸失利益については、亡志津子のキヤデイーとしての平成三年の年収額が、その翌年である平成四年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者、全年齢平均の年収額三〇九万三〇〇〇円、同五〇歳~五四歳平均の年収額三二九万六一〇〇円と対比してもこれを上回つていること、一般的な主婦が家事労働に従事する時間についてはこれを認める資料等がないこと、亡志津子は夫と二人暮らしであり、その場合には夫もある程度は家事に従事するのが通常であり、家事の全てを亡志津子が担つていたとは考えられないことなどの諸点を勘案すると、いわゆる専業主婦の場合の逸失利益と対比しても、亡志津子の家事労働相当分の逸失利益をキヤデイーとしての逸失利益のほかに認める必要性に乏しいと考えられる。

(二)  葬儀費用

証拠(丙二二の1、2、二三、二四の1ないし7、二五の1ないし13、二六の1ないし4、三四、原告晃、原告芳昭本人―第二回)によると、亡志津子及び亡佐知子の葬儀の関係費用として領収書の存在するものの合計が三〇二万八二五九円であること、その他領収書が存在しないが僧侶に支払つたと認められるものが八四万五〇〇〇円であること、写真代が四万四〇〇〇円であること、それらの合計が三九一万七二五九円であること、亡志津子の分としてはその半額であること、葬儀は二回行われているが、一回目は原告晃が入院中であり、二回目は原告晃退院後であることが認められる。

二回の葬儀費用はいずれも本件事故による支出であるが、この費用のうち、本件事故と因果関係のある亡志津子の損害としては、一二〇万円を認めるのが相当である。

(三)  遺体搬送料

証拠(丙二一の1、2、三四)によると、亡志津子及び亡佐知子の遺体搬送料として合計一五万〇九九〇円が支出されたことが認められ、その半額である七万五四九五円が本件事故と因果関係のある損害と認められる。

(四)  慰謝料

本件事故の態様、結果、とりわけ被告新堀が飲酒運転であつたことを考慮すると、亡志津子の精神的苦痛を慰謝するには二五〇〇万円が相当である。

2  亡佐知子

(一)  逸失利益

証拠(乙三二、三四の1、丙三四)によると、亡佐知子は昭和四八年一二月一六日生まれの独身の女性で、本件事故当時一八歳であつたこと、東京でアルバイトをしながら原告美佐子と一緒に暮らしていたことが認められる。亡佐知子は少なくとも平成三年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者、全年齢平均の年収二九六万〇三〇〇円を得られたものといえ、右収入から生活費として三〇パーセントを控除し、六七歳まで四九年間の中間利息をライプニツツ方式により控除して、逸失利益を算出すると、三七六四万九三六一円となる。

296万0300円×(1-0.3)×18.1687=3764万9361円

(二)  葬儀費用

前記認定(七1(二))のとおりである。

本件事故と因果関係のある亡佐知子の損害としては、一二〇万円を認めるのが相当である。

(三)  遺体搬送料

前記認定(七1(三))のとおりである。

よつて、七万五四九五円が本件事故と因果関係のある損害と認められる。

(四)  慰謝料

本件事故の態様、結果、とりわけ被告新堀が飲酒運転であつたこと、将来結婚を予定していた亡仁とともにその命を失つたことを考慮すると、亡佐知子の精神的苦痛を慰謝するには二二〇〇万円が相当である。

3  原告晃

(一)  治療費・文書費

証拠(丙一二ないし一五)によると、原告晃の治療費として四万二四一七円を要したことが認められる。

なお、丙二八は入院費用分を含むものであるので、算入しない。

(二)  入院費

証拠(丙一一、二七、二八)によると原告晃の入院費として少なくとも、四万〇七二九円を要したことが認められる。

(三)  入院付添費

丙七によると医師が付添看護を要したと認めていないことが窺われる上に、前記認定の原告晃の受傷の程度によると、付添いが必要であつたとは認められない。

(四)  通院付添費

前記認定の原告晃の受傷の程度によると、付添いが必要であつたとは認められない。

(五)  入院雑費

前記認定のとおり、原告晃は一四日間入院したことが認められ、その入院雑費としては、一日当たり一三〇〇円が相当であり、その額は一万八二〇〇円となる。

1300円×14日=1万8200円

(六)  通院交通費

前記認定のとおり、通院日数は二六日であり、その通院に公共交通機関を利用すると、寄居町から熊谷市まで秩父鉄道、熊谷市から深谷市までJR高崎線となり、片道少なくとも二〇〇円を要することは明らかであり、合計一万〇四〇〇円を認めるのが相当である。

200円×26回×2=1万0400円

(七)  入院付添交通費

付添いが必要なかつたことは前記のとおりであり、損害と認めることはできない。

(八)  逸失利益

前記認定の事実に、証拠(丙一、三の1、三四の1、三六の1、2、三七、原告晃本人)を総合すると、原告晃は昭和一四年五月四日生まれで、本件事故当時五二歳であること、遅くとも平成四年八月に症状固定とされ、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一四級の認定を受けていること、症状固定時は五三歳であること、昭和四二年に普通第二種運転免許を取得し、その後タクシー運転手として勤務していたこと、本件事故当時は県南交通株式会社に勤務していたこと、平成二年の年収は三一八万八七三一円、同三年の年収は一一八万五七六八円であること、平成三年二月ないし四月の本給は一か月七万八一〇〇円であること、付加給はその約二倍弱であることの各事実が認められる。

右事実によると、原告晃は、その年齢、経歴によると今後においてタクシー運転手から転職する可能性は低く、その本給等から推察すると、原告晃が賃金センサスによる平均賃金を得る蓋然性は極めて低いと考えざるを得ず、逸失利益の算出にあたつて、賃金センサスの平均収入を基礎とすることはできない。しかし、前記認定のとおり付加給が本給の二倍弱であることに鑑みると、毎年の収入に変動があることが窺われるから、前年の収入を逸失利益の算出の基礎とすることも妥当とはいえず、平成二年と同三年の収入の平均をもつてその基礎とすべきであり、右収入に、後遺障害一四級の労働能力喪失率五パーセントを乗じ、六七歳まで一四年間の中間利息をライプニツツ方式により控除して、逸失利益を算出すると、一〇八万二五三五円となる。

(318万8731円+118万5768円)×1/2×0.05×9.8986=108万2535円

(九)  慰謝料

(1) 入通院

前記認定の入通院期間等を考慮すると、原告晃の慰謝料としては、八〇万円が相当である。

(2) 後遺症

原告晃の後遺障害の程度を勘案すると、その慰謝料は九〇万円が相当である。

(一〇)  物損関係

(1) 車全損

証拠(乙一、一三、三四の一、四三、丙三四、原告芳昭本人―第二回)によると、甲車両は、トヨタスプリンター(形式E―KE70、排気量一・二九リツトル)で原告晃のものであること、昭和五五年五月に初度登録されたこと、本件事故によりフロントガラス破損欠落、右前後部ドアー凹損、右前後部ドアーガラス破損、右後部フェンダー凹損等の損傷を受けたことが認められる。

右事実によると、甲車両は全損と認められ、その価格については的確な資料はないが、オートガイド自動車価格月報小型車版平成四年一月一日~一月三一日(レツドブツク)によると、昭和六〇年五月発売の同排気量のトヨタスプリンター(形式E―EE80)の中古価格は二五万五〇〇〇円であり、甲車両はその五年前の登録であることを勘案すると、右中古価格の約二割に相当する五万円をもつて、その損害額と認める。

(2) レツカー代

証拠(丙三一、三四)によると、甲車両のレツカー代として、三万八五〇〇円を要したことが認められる。

(一一)  文書料

証拠(丙三二の1ないし8、三四)によると、事故証明書、戸籍謄本等の文書の費用として一万八九〇〇円を支出したことが認められ、これらは亡志津子らの火葬あるいは自賠責保険請求のために必要な支出であつたと認められ、本件事故と因果関係のある損害と認められる。

4  原告芳昭、同美佐子

(一)  引越し料

前記認定の事実に、証拠(丙一〇、二九、三〇、三四、原告晃)を総合すると、原告晃は本件事故による入院中、幻聴、被害関係妄想が出現したこと、退院時には服薬により寛解したこと、退院後は一時抑うつ状態となつたが、平成四年八月までには精神状態は寛解したこと、原告晃は本件事故により妻である亡志津子を失い一人暮らしとなつたこと、原告晃の長男である原告芳昭と長女である同美佐子は、本件事故以前はそれぞれ東京都内に居住していたが、同年二月に原告晃の住まいへ転居したこと、その費用として原告芳昭は二万九四九〇円、同美佐子は三万二六八〇円を要したことが認められる。

右事実によると、本件事故後の原告晃の精神状態等に鑑みると、子らである原告芳昭と同美佐子が、原告晃の精神的支えとなり、その世話をする必要があつたものと認められ、右転居費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(二)  特別手当減額

証拠(丙三四)によると、原告芳昭は、本件事故のため休暇を取つたので特別手当てが合計四万四〇〇〇円減額されたことが認められるが、右は加害者において直ちに予見可能なものとはいえず、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

5  てん補

てん補額は、当事者間に争いがない。

6  原告晃、原告芳昭及び原告美佐子の相続(請求原因2(五)(2))

前記争いのない事実に、証拠(乙三二、三三、三四の1)を総合すると、亡志津子については、原告晃はその夫であり、原告芳昭及び同美佐子はその子らであり、亡志津子の損害は、原告晃が二分の一である一一四三万〇五八二円、原告芳昭及び原告美佐子が各四分の一である五七一万五二九一円を相続したこと、亡佐知子については、原告晃及び亡志津子はその両親であり、亡佐知子の損害を各二分の一宛相続し、亡志津子が相続した分は、原告晃がその二分の一を、原告芳昭及び原告美佐子がその各四分の一を相続したものであり、亡佐知子の損害は、原告晃が四分の三である一七一四万五八七三円、原告芳昭及び原告美佐子が各八分の一である二八五万七六四五円を相続(更正決定原告晃が四分の三である二四七〇万八六四二円、原告芳昭及び原告美佐子が各八分の一である四一一万八一〇七円を相続)したことが認められる。

7  弁護士費用

原告晃、同芳昭及び同美佐子が本件訴訟(乙事件)の提起、遂行を同原告ら代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑み、原告らの本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、原告晃に三〇〇万円、同芳昭に八六万円、同美佐子に八六万円を認めるのが相当である。

七  過失相殺(抗弁1)

前記六で認定のとおり、亡仁に過失はないから被告新堀らの抗弁は理由がない。

八  免責(抗弁2)

前記六で認定のとおり、亡仁は無過失であり、原告清生らの抗弁は理由がある。

九  まとめ

1  甲事件

被告新堀が運行供用者であることは争いがないから、同被告は亡仁に生じた損害を賠償する義務がある。

そして、その損害は別紙損害金計算書Ⅰのとおりであり、過失相殺が認められないことは前記のとおりであるから、原告清生、同正三子の請求はすべて理由があるから認容する。

2  乙事件

(一)  原告清生、同正三子及び亡仁の任意保険会社としての被告日産火災に対する請求

亡仁には過失が認められないから民法七〇九条の責任を認めることはできないし、また、亡仁が運行供用者であることは認められるものの、無過失であるから自賠法三条ただし書の免責事由が認められる。

よつて、原告晃、同芳昭及び同美佐子の原告清生、同正三子及び亡仁の任意保険会社としての被告日産火災に対する請求は、理由がないからすべて棄却する。

(二)  被告新堀及び同被告の任意保険会社としての被告日産火災に対する請求は、被告新堀には自賠法三条、民法七〇九条の責任が認められ、被告日産火災には自家用自動車総合保険の約款上の責任(対人、対物)が認められ、亡志津子、亡佐知子及び原告晃に生じた損害を賠償する義務がある。

そして、その損害は別紙損害計算書Ⅲのとおりであり、原告晃、同芳昭及び同美佐子の請求は右限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 竹内純一)

損害金計算書Ⅰ

事件番号5―4762 当事者大河内VS新堀(甲事件)

損害金計算書Ⅱ

5―25052,関根VS新堀・大河内・日産火災海上(乙事件)

損害金計算書Ⅲ

5―25052,関根VS新堀・大河内・日産火災海上(乙事件)

〔更正決定〕

損害金計算書Ⅲ

5―25052,関根VS新堀・大河内・日産火災海上(乙事件)

交通事故現場見取図

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